前回まで二回、天体入門者の障壁となる項目とその対処方法をお伝えしてきました。
今回はいよいよ興味を持つ方が一番多いと思われる撮影について記載していこうと思います。
まず、お伝えしなくてはならないことは
天体撮影は非常に特殊撮影の領域になり、入門者が手軽に試してみるといった環境が整っていないとお考えください。自転車に例えるなら、ママチャリのようにフルセットで乗れる状態ではなく、ロードバイクを部品から組んでいく状態に近いです。
結果、今の段階では複数の機器の組み合わせや使用方法などをユーザーサイドで準備したり、知識をつけないと撮影が困難な状況です。
撮影ではなく、肉眼で星空を眺めたり、小型の双眼鏡などで観望する場合はスマホの天体アプリが非常に大きな助けになります。
なぜ、このように有効に活用できるのでしょうか。
・スマホに内蔵されたGPS、各種センサーを活用しているため
ユーザーが意識しなくてもそれらを観望補助として有効に利用ができる。・肉眼や、手持ちの双眼鏡くらいの視野であればそのセンサー類が示した方向で導入などが容易
・スマホアプリ自体が天体のデータベースでもあるので入門者が学習できる。
・肉眼で見えない対象は双眼鏡などでかなり観望することができる。
・計算すると複雑な天体の現在位置情報を自動で計算し表示、各種センサーを活かし観望支援できる機能(スマホを空にかざせばその方向の天体が見える)がある
私は今まで
テクノロジーの活用と不足要素の補填が入門者にとってより快適な環境づくりに役立つとお伝えしてきましたが、上記スマホと双眼鏡などライトな観望であればスマホアプリがスマホが持つテクノロジーを有効活用しており、観望の補助として肉眼より更に詳細に見ることができる双眼鏡などで補填ができる環境になっているということです。
現状では、撮影となると多かれ少なかれ
テクノロジーの活用と不足要素の補填ができない部分があります。
天体写真を取るには幾つか機材が必要になりますのでその項目ごとにご説明します。
天体撮影は対象が夜空の星という非常に暗いものになるため、現状のカメラでは手持ちで撮影することは困難です。
必ず以下の三点の機器をベースに補助となる機材も必要になります。
・長い露光時間でもブレずに撮影できる三脚と架台、より長時間撮影するためには架台部分に地球の自転を追いかける機能が必要。
架台は大きく分けて2種類、経緯台と呼ばれる上下左右に移動ができるもの、赤道儀と呼ばれる北極を軸として地球の自転にそって回転するものがあります。現状では非常に長時間の露光を要するものはモーターや自動導入機能がついた赤道儀が使用されています。(経緯台も使用できるのですが、長時間露光になると追尾しても視野が回転してしまうので視野回転装置が必要になります。(アマチュア用の視野回転装置が現状商品としてありません))
・長い露光時間、様々な焦点距離に対応したカメラ(レンズが付け替えられるも)
・取りたい対象のサイズに合わせたレンズ(写真レンズ、天体望遠鏡など)
現状ではそれらを満たすために様々なメーカーの機器を組み合わせて環境を作っていきます。
天体の対象は非常に暗く、小さいものが多いため、架台にそれらを
自動導入できる機能がついたもの、架台の追尾精度では星が点にならず流れてしまうことが多いので詳細に追尾するためにさらにカメラをもう一台設置し、
PCなどでリアルタイムに位置を補正する機能(オートガイド)を追加して撮影している方も多くいます。
上記のような理由から
通常撮影のようにカメラのオートで撮影できる環境ではありません。
上記機器を組み合わせても全ての領域で自動化されることもありません。どんなに高額な機器を使用しても現状ではユーザー側にセットアップが委ねられる項目が幾つかあります。現状ではユーザがあらゆる手段を利用して情報収集を行う必要があるものと考えてください。
雑誌だけでなく、ネット、特に
海外のサイトなどまで含めて広く情報を集めることをおすすめします。では、今回のアプローチとなる
テクノロジーの活用と不足要素の補填という流れで対処法をご説明します。
テクノロジーの活用という観点ではPC、もしくは現在であればシングルボードコンピュータとそのアプリと自動導入に対応した架台を用いることで以下の要素を自動化、もしくはコントロールできます。
・天体の自動導入
・詳細な位置解析(PlateSolving)
・(PCで制御できるフォーカサーを追加すれば)モニターを確認しながらのフォーカス制御
・カメラの露出時間や撮影枚数の制御
・カメラの制御項目の設定
・(ガイド用のカメラを設置すれば)オートガイド機能
他にも幾つかの制御項目のコントロールや自動化ができる項目がありますが、
通常のカメラのようにオートで全て設定してくれる機能は現状ありません。また、初期のセットアップで緯度・経度、日時情報の取得→同期、架台の初期状態のセット(経緯台であればホームポジション、赤道儀であれば極軸設定+ホームポジション)が必要になります。
その後、アライメントと呼ばれる複数の星を手動で導入、設定を行うことでようやく架台が使えるようになります。
PC、現在であればシングルボードコンピューターに天体機器を制御するための機能を追加することでかなり多くの部分がコントロールできますが、現状では
赤道儀の極軸合わせやアライメント作業などをユーザーが行う必要があります。カメラに関しては現状ではレンズを交換できる一眼デジカメタイプのカメラ、または天体用に開発された天体カメラを使用することになります。
それぞれの特徴と不足要素を記載します。
●一眼デジカメの場合・撮像素子の特性を引き出す画像処理エンジンを搭載→画像処理エンジンを使用すると保存形式がJPEGのみ
・ライブビューなどの撮影補助機能→天体で使うためには感度不足
・動画撮影機能→天体で使うためには感度不足になることが多い
撮影に便利な特徴が多数ありますが、その幾つかは特殊撮影となる天体撮影では利用が困難ですが、
オリンパスのフォーサーズに搭載された
ライブビューブースト、ライブバルブ・ライブコンポジット、
ペンタックスのアストロトレーサーなど天体撮影に有効に利用できる機能やオプションを備えたカメラも登場してきています。
●天体カメラの場合・ノイズをへらす冷却機能など天体撮影用に適した機能
・本体のみで撮影ができないためPCが必須→PCの制御ソフトの良し悪しで使い勝手が異なる
・一眼デジカメのような撮像素子の特性を引き出すような画像処理エンジンはない→ユーザーの後処理が必須
・画像処理エンジンが無いため、PCの処理負担が大きい→ユーザーが快適に運用できるような工夫が必要
と、現状ではユーザーが多くの組み合わせを試行錯誤しながら撮影環境を作る必要があります。
しかし、このように記載すると不足要素が明確になります。
現状で確実に不足する要素は以下
・天体用の架台設置の自動化(赤道儀の場合は極軸設定、経緯台の場合は視野回転機構(これはカメラ側に必要)
・カメラの天体用機能の追加(ライブビューブーストやライブバルブ、ライブコンポジット機能、長時間露光時のノイズ処理、PCの負担を軽減する天体撮影用のエンジンの追加など)
・上記複雑な接続を容易に行える機器側の準備(端子の一元化や組み込みなど)
・上記複雑な環境を一元管理できるPC用のフロントエンド上記の不足要素が解消されれば、カーナビやカメラ同様、ユーザーが意識しなくても自動で操作できる環境が整うと思います。そういった商品の登場を期待したいところですが、現状はユーザ自身でテクノロジーの活用環境の構築、不足要素の補填(補助機能の追加など)を行いながら楽む(苦しむ)ことが必要です。
私が上記を踏まえ、現状できることで提案した環境構築が
こちらに記載されています。
興味ある方はご高覧ください。
追伸
個人的にも思い入れがある部分なので非常に長文になってしまいました。
これから天文に興味を持つ方を増やすというのであれば入門エリアに障壁を下げるテクノロジーの活用は不可欠だと感じています。
(多くの対象を簡単に探すことができる、見て確認できる、撮影もできるという統合環境が
簡単に使えるようになるなるためには必須の要素だと思います。)
非常に低価格でクローズドループ制御を実現したAZ-GTiや正確な位置解析が可能なPlateSolving技術などラズパイクラスのSBCで実現できる時代になっています。
現状ではそれらを購入してすぐにフル活用できるソリューションがほぼありません。
(AZ-GTiを架台とした望遠鏡セットに廉価な天体カメラとASIAirなどが現状では一番近いですが、どちらかというと入門用というよりマニア用です。)
上記に上げた機器がいずれも国産でなく、他国の取り組みであるということも国産機で育った世代からすると悔しくも感じます。
光学大国でもあった日本から提案性のある魅力ある入門機が登場することを期待しています。(個人的には親子で楽しみながら、子供の方が早く使いこなしてしまうといった環境が出来れば天文を趣味にする輪が拡がっていくように感じます。)